採集鉱物図鑑
河津鉱山猿喰脈の燐酸塩鉱物など

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 河津鉱山の猿喰脈の転石を観察している中で興味を引いたことがある。微細な鉱物であり、目立たないためか話題にも上らなかったのだが、複数種類の燐酸塩鉱物が観察されているのである。色調は黄褐色から緑褐色で、ルーペを用いてようやく観察可能な小サイズがほとんど。これらのサイズの鉱物を指し、外国産の鉱物と比較してカビのようだと表現した方もおられたが、まさにそのような鉱物である。
 河津鉱山において観察される特異な鉱物の一つにバリシア石がある。比較的見かける機会が多いのは大沢脈で、石英の空隙や、ウィチヘン鉱の微小結晶が石英中に散在するタイプの岩脈中の空隙に、極微小柱状結晶の1ミリ以下の半球状集合として観察される。色調は淡い青緑色や乳白色で、拡大観察によると、表面に柱状結晶の端部の集合になる皺状の文様、あるいはスリガラスのようなざらつきが観察される。断面は細い柱状の集合のため、本来はガラス光沢であるものが絹糸光沢に感じられる。
 二十年ほど前になるが、筆者が初めて大沢脈を訪れた際、間違えて一つ隣の沢に入り込み、黄鉄鉱と閃亜鉛鉱の散在する石英が主体の転石が散在する沢を探し回ったものの、ついに目的とする大沢脈のテルル鉱物を探し出すことができなかったという経験がある。沢を間違えたのだから当然だが、その際に銀星石を採集している。
 見かけはバリシア石と同様であるため、分析によって判断しなければならないが、拡大による目視観察では結晶の形態が異なる点に注意されたい。バリシア石の結晶は細い柱状の集合だが、銀星石の結晶は、柱状結晶が散在する傾向にあることと、結晶一つの形状が、卒塔婆のように先端の幅が広く端部が尖っていることにある。いずれも黄鉄鉱、閃亜鉛鉱の小さな結晶が散在する石英中の空隙に見出された。ただし、いずれの鉱物についても、正確な同定は分析に依らねばならない。
 河津鉱山産の燐酸塩鉱物といえば、上記の鉱物と、褐色で微細な針状結晶の集合になるカコクセン石が良く知られている。カコクセン石も大沢脈の転石中や他の地域で観察している。これも10年以上前の記憶で、大沢の転石を数人で観察したことがあったが、その最中、知人がひょいと拾い上げた褐色の石英片を示し、「このようなところにカコクセン石があるんだ」と言われたので、それをルーペで観察したところ、確かに微細な針状結晶がマットのように生じているのが観察されたのである。なるほどと感心したのだが、それは、大沢脈が燐酸塩鉱物の生じる環境、バリシア石が多産するという環境にあったことを証明しているような出来事であったのだ。
 その他、筆者は確認していないが、亜鉛と銅を含む燐酸塩鉱物のファウスト石(松山・小林・清田1996)も大沢脈で見出されている。また、ウィチヘン鉱を伴う石英中には雲母質の白色微粉末状物質で充填された空隙があり、その中に淡い青緑色球状の不明鉱物が埋まった状態で観察される場合がある。これもここではバリシア石の参考試料として扱うが、未分析であり、他の燐酸塩鉱物の可能性もある。
 以下に、猿喰脈の転石の観察から見出した燐酸塩鉱物、これに類似の砒酸塩鉱物、そして、この脈の燐酸塩鉱物に現われている特徴でもある鉛の存在に関連して、鉛の二次鉱物を、大沢脈産のバリシア石と銀星石を参考に、併せて紹介する。

■燐酸塩鉱物

 バス亭裏と呼ばれている一帯は、河津鉱山各脈で産出する鉱石の集積場であり、基本的にここですべての鉱物が採集できるはずだが、実は、この場所が鉱物趣味者にとっての標本の捨て場所ともなっており、筆者はこれまでにこの産地で二つの大きな間違った採集と公表を行ってしまった。一つは『鉱物同志会』の会誌である『水晶』のVol.8(1994)の裏表紙に、河津鉱山産緑鉛鉱としてバス亭裏で採集した試料を掲載していただいたことがあるのだが、その件である。その頃筆者はまだ、バス亭裏で採集可能な鉱物の意味を理解しておらず、とても綺麗な河津鉱山産の緑鉛鉱を採集したと思い込んでいた。その後、同様の水晶との組み合わせになる緑鉛鉱の採集を試みたが、ついに現在までめぐり合っていない。そもそも、採集した当時の状況を思い起こせば、まさに拾ってくださいと言わんばかりの状態で、見つけ易い所に緑鉛鉱があったのである。おそらく誰かが捨てたものを、筆者が採集してしまったのである。同様に、バス亭裏で燐灰石も採集した。緑鉛鉱と同じような状況で採集したのだから、これも誰かが捨てたものであろう。この両試料の写真を自らへの戒めとして、まず紹介する。十数年ほど前に写真のような標本を捨てたという心当たりのある方がおられたら連絡してほしい。


●燐灰石 Apatite Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)
 猿喰脈の転石中より見出した試料。白く不透明の石英中に四面銅鉱系の硫化鉱物を含み、それが分解したものであろう緑色を帯びた二次鉱物が観察される部分が近傍にある小さな空隙に、無色透明、六角短柱状結晶が点在する。分析済み。




猿喰脈産燐灰石 左右4ミリ


●緑鉛鉱 Pyromorphite   Pb5(PO4)3Cl
 猿喰脈の転石中より見出した試料。二つのタイプがある。一つは、白く不透明な石英のみからなる転石の空隙や割れ目に観察され、透明感のある黄緑色柱状、先端の尖った柱状で1ミリ以下。石英の割れ目には二酸化マンガンと思われるシミが点在している。ただし、ミメット鉱の可能性がある。もう一つは、白鉛鉱を伴い微小水晶の生じた石英の空隙で、鉄錆で褐色に汚れている部分に、黄褐色透明で六角柱状結晶の集合で観察された。










猿喰産 黄緑色透明緑鉛鉱 左右4ミリ

猿喰産 黄褐色透明緑鉛鉱 左右4ミリ


●バリシア石 Variscite   AlPO42H2O
 猿喰脈の転石及び猿喰脈上部の露頭部の転石中の、黄鉄鉱を縞状に含む白く不透明な石英中の空隙に、淡い青緑色で1ミリ以下の球状結晶として観察された。四面銅鉱系鉱物と黄鉄鉱を含む石英の空隙に、淡い青緑色あるいは黒色を帯びた褐色で1ミリ以下の球状結晶として観察された。いずれも断面は細い柱状結晶の集合。分析済み。










猿喰産 黄鉄鉱と四面銅鉱系鉱物中に観察されるバリシア石 左右4ミリ
一部のごく近傍にテルル石が観察される例もある


●コーク石 
Corkite  Pb(Fe3+)3(SO4)(PO4)(OH)6
 猿喰脈の転石中より観察された。鉄錆で褐色に汚れた石英の空隙及び割れ目に、黄緑色で半透明の柱状結晶の半球放射状集合、及び柱状結晶が点在する状態で観察された。球状集合では光沢が弱く、柱状結晶の場合には光沢が強い。肉眼では、辛うじて微小粒状集合。分析済み。








猿喰産コーク石 球状集合の表面は光沢がない 左右4ミリ


●キントレ石 Kintoreite   Pb(Fe3+)3(PO4)(PO3OH)(OH)6
 猿喰脈の転石中より観察された。鉄錆で褐色に汚れた石英の空隙に生じている小さな水晶の表面を覆うような、微細な粒状結晶。黄褐色半透明。肉眼では皮膜状。分析済み。
 
CorkiteKintoreiteあるいは次に説明するSegnititeも鉛を含む二次鉱物である。鉛は、猿喰脈では方鉛鉱として観察されるも、他の鉱山と同様、鉛の二次鉱物の多くは母鉱物と密に接触して観察されない傾向にある。ミメット鉱あるいは白鉛鉱が比較的多く観察されることから、これらを経て三次的にCorkiteKintoreiteSegnititeなどが生じたとも推測される。






猿喰産キントレ石 微細な水晶を覆うように生じている 左右4ミリ


■砒酸塩鉱物

●セグニット石 Segnitite  Pb(Fe3+)3AsO4(AsO3OH)(OH)6
 猿喰脈の転石中より観察された。鉄錆で褐色に汚れた石英の空隙あるいは割れ目に、緑褐色、褐色の微小柱状結晶の放射状集合として存在した。砒酸塩鉱物を生じさせる程度の砒素の供給鉱物は、現在のところ不明。硫砒鉄鉱などが想定されるも筆者は確認していない。分析済み。






猿喰産セグニット石 細柱状結晶の放射状集合 左右4ミリ


●ミメット鉱 Mimetite  Pb5(AsO4)3Cl
 猿喰脈の転石中より観察された。石英の割れ目や表面に、白、淡い黄褐色で不透明な中太の柱状結晶。比較的多く観察される。分析済み。






猿喰産ミメット鉱 わずかに黄色味がある柱状結晶 左右4ミリ



比較的多く見られる猿喰産ミメット鉱
転石の表面にあり風化している 白鉛鉱の可能性もあり  左右4ミリ



■その他関連する鉛の二次鉱物

●白鉛鉱 Cerussite     PbCO3
 猿喰脈の転石中に観察された。Mimetiteとは区別ができない場合もあるが、確実な例としては、石英の空隙に柱状結晶の集合として観察され、破断面には独特の光沢がある。




猿喰脈産白鉛鉱 左右12ミリ

●青鉛鉱   Linarite    PbCu(SO4)(OH)2
 猿喰脈の転石中より観察された。方鉛鉱を伴う石英の割れ目に青色で微細な針状集合。観察された個体はごく少量である。カレドニア石様二次鉱物も観察されたが、ごく微量。


猿喰産青鉛鉱 左右4ミリ

●硫酸鉛鉱   Anglesite    PbSO4
 猿喰脈の転石中より観察された。10ミリほどの厚さの方鉛鉱の脈に伴う石英脈の空隙中に、無色透明なずんぐりとした結晶で存在した。ごく少量。


猿喰産硫酸鉛鉱 方鉛鉱の表面を覆う微細な結晶 左右12ミリ

 以上、簡単に産状を紹介した。決して目立つ鉱物ではないが、この地域の特性を物語る鉱物として捉えると、興味深いのはテルル鉱物だけではないことがわかる。今後、いずれも採集や観察が容易になる可能性は低いが、記録として残さねばならないと考えて紹介した。
 分析済みと表記のある鉱物の同定は、いずれも原田明氏にお願いした。改めて感謝申し上げる。







































十数年前にバス亭裏で採集した緑鉛鉱 左右4ミリ
極めて端整な六角形柱状結晶
採集したとは言え河津鉱山産の可能性は低い








十数年前にバス停裏で採集した燐灰石 左右12ミリ
この燐灰石も河津産と考えて良いのだろうか
青色不明鉱物を伴う

















































大沢脈の坑口の隣の沢で採集した銀星石 左右12ミリ


大沢脈産バリシア石 左右4ミリ

大沢脈産バリシア石 左右12ミリ

大沢脈産 バリシア石? 左右4ミリ











































































































































































































I LOVE FLUORITE 蛍石大好き