採集鉱物図鑑
河津鉱山猿喰脈のテルル石

contents

はじめに
 静岡県下田市の河津鉱山では、自然テルル、テルルを含む鉱物群およびこれを源とした二次鉱物群が見出された。筆者は河津鉱山猿喰脈からのものと推測される転石からテルル石を見出した。観察の結果、猿喰脈のテルル石の産状は大沢脈あるいは桧沢脈で産出したテルル石とは性質が異なっていることに気付いた。そこで、幾つかの例を写真で示し、大沢脈及び桧沢脈のテルル石と比較し、猿喰脈産のテルル石を考察する。
 なお河津鉱山は、多くの観察者が訪れて過度な採集が行われ、数年ほど前から採集禁止と立ち入り禁止の区域が多くなった。河津鉱山のある地域は急峻な山際であるため、転石が道路にまで及ぶことが多く、以前から採集者への注意が喚起されていた。

地質及び鉱床
 河津鉱山は静岡県下田市の市街地から北方約4kmに位置し、鉱脈は東西約2.5km、南北約1.5kmの範囲に全体で大小20以上を数える。鉱床の形態は低温熱水性金銀銅鉱脈鉱床。
 河津鉱山を構成している鉱脈には、大沢脈、桧沢脈、鶴ヶ峰脈、猿喰脈、掛橋脈、八木山脈、大方脈、藤ヶ鉱脈などがあり、これらの内、大沢脈、桧沢脈、鶴ヶ峰脈、猿喰脈、八木山脈ではテルルを含む初成鉱物と二次鉱物が観察されている(大石,2006)。ただし、筆者はテルル鉱物が産出したすべての鉱脈の転石を観察したわけではない。鶴ヶ峰には訪れておらず、八木山については観察可能な転石が存在しない。

猿喰脈で観察される鉱物

 観察されるのは、石英中に微細な粒状の黄鉄鉱が脈状、あるいはレンズ状に集合した転石が主体で、硫化物ではこのほか、砒四面銅鉱、ゴールドフィールド鉱、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱、輝銅鉱、班銅鉱、輝銀鉱、元素鉱物では自然金、自然イオウ、これらの二次鉱物では白鉛鉱、緑鉛鉱、青鉛鉱、ミメット鉱、ブロシアン銅鉱、孔雀石、亜鉛孔雀石、藍銅鉱、異極鉱、硫酸鉛鉱、燐灰石、バリシア石、カコクセン石、不明燐酸塩鉱物、胆礬、緑礬、イネス石、ヨハンセン輝石、菱マンガン鉱、方解石、二酸化マンガン鉱、テルルを含む二次鉱物ではエモンス石、ラジャ石、ゼーマン石 そしてテルル石、パラテルル石。

四面銅鉱系鉱物及び黄鉄鉱中のテルル石
 猿喰脈では、砒四面銅鉱及びゴールドフィールド鉱が確認されている。いずれも石英脈中に微細な結晶の集合で、同様に微細な結晶の集合になる黄鉄鉱と混じり合うように、時に小規模のレンズ状あるいは脈状に濃集していることがある。石英及とこれら硫化鉱物の密集している部分には小さな空隙があり、この空隙を埋めるように、あるいは空隙の内部に、または割れ目に、樹枝状、細い柱状、薄い板状、粉末状のテルル石が生じている。テルル石は黄色味を帯びた白色、黄色、褐色の透明、半透明で、結晶が明瞭な場合には金剛光沢、微細な場合や粉末に近い場合には絹糸光沢を呈している。
 天水による影響を受けたと推測されるゴールドフィールド鉱を含む転石の割れ目や表面には、白あるいは黄色の光沢の強いパラテルル石が観察されることがある。また、銅の分解物の影響を受けた転石では、緑色に着色されたパラテルル石と推測される皮膜で覆われている例もある。
 桧沢脈産のテルル石は、素焼き状石英の空隙、及び自然テルルの隙間に、黄褐色透明な柱状、板状の結晶として観察された。多くの場合、ごく近傍に自然テルルを伴い、テルル石の起源が推測できる。
 大沢脈産のテルル石は、石英の割れ目に観察され、近傍に桧沢脈のような自然テルルを伴わない例が多い。大沢露頭では、黄鉄鉱を多量に伴う石英脈中に微細な自然テルルが幅数ミリほどのレンズ状の脈を成して観察され、これに伴って灰色、黄褐色、灰褐色、半透明の柱状テルル石が観察された。粗見では見逃してしまいそうな黒味を帯びた結晶も見られた。


猿喰脈転石に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈転石に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈転石に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈転石に見出されたテルル石 左右20ミリ

猿喰脈転石に見出されたテルル石 左右60ミリ

猿喰脈の露頭
 猿喰脈の上部露頭は、急峻な山肌に黄鉄鉱を含む石英脈として断続的に観察される。その延長線を追跡したところ、一部に、特に天水の影響を受けて腐蝕し分解したと推測される多孔質の黄鉄鉱の脈があり、脈から剥がれ落ちたと推測される転石を確認した。この黄鉄鉱の隙間に厚板状で最大5ミリの黄白色半透明のテルル石が含まれていた。黄鉄鉱の近傍に四面銅鉱系鉱物の存在も確認した。



猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右60ミリ

猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈露頭に見出されたテルル石 左右8ミリ

猿喰脈露頭に見出されたパラテルル石 左右8ミリ

考察
 これらと照らし合わせてみると、猿喰脈のテルル石の産状が大沢や桧沢とは異なっていることが分かる。即ち、肉眼で観察可能な自然テルルの産出は確認されておらず、砒四面銅鉱やゴールドフィールド鉱に密に接し、その組成に影響を与えるほどに濃集している部分がある。
 桧沢や大沢露頭で観察されるテルル石は自然テルルの分解酸化によるものと推測されているが、猿喰脈では自然テルルが全く見出されておらず、テルル石の起源がゴールドフィールド鉱の分解によるもの、あるいは初性のテルル石が硫化物に混在しているという可能性が上げられる。ところが、ゴールドフィールド鉱の分解を想定する以上の量のテルル石が、ゴールドフィールド鉱の存在しない部分にも偏在することから、後者、テルル石はゴールドフィールド鉱とは無関係に存在する、初成のものであると考えられる。

 その他、テルル石と直接的な関わりはないものの、テルル石の産出する近隣において観察された鉱物を紹介する。
 自然イオウは微細な粒状の集合で多産する。イオウを見出した初期、光沢が強く黄色を呈するこの微小結晶はテルルの二次鉱物ではないかと疑ったことがあった。
 稀に球状を呈する1ミリ以下のバリシア石が、黄鉄鉱の隙間に観察されることがある。淡い青緑色、暗く沈んだ緑色などがある。テルル石の極めて近くに産出することから、これも最初はテルルの二次鉱物と疑った。
 猿喰脈の黄鉄鉱は、多量の緑礬を析出させるという特徴がある。淡い青緑色の針状あるいは皮膜状で、水に溶解し易い。この鉱物の存在が、エモンス石(河津鉱山猿喰ヒの稀産鉱物参照)の産出に関わりがあると考えられる。手に付着しては溶解して不快感を得る鉱物だが、写真にすると、結構美しい。水洗する前に撮影しておいた。採集した後の保管中でも析出が続くので、良く乾燥させた後に湿度管理を的確にしたい。酸性であるため、包み紙などは腐蝕分解する。
 黄鉄鉱とゴールドフィールド鉱−四面銅鉱系鉱物を含む母岩の表面の雲母質の部分に淡い紫色の染みを観察することがある。これがテルルのイオン色であり、母岩中にテルルの存在を示唆するものと考えられる。

2010-11














































大沢脈の転石より見出したテルル石 左右20ミリ
母岩はウィチヘン鉱を含む石英
この母岩の空隙に淡い青緑色のバリシア石も観察される




大沢露頭のテルル石と自然テルル 左右8ミリ

大沢露頭のテルル石と自然テルル 左右20ミリ

大沢露頭のテルル石と自然テルル 左右20ミリ

大沢露頭のテルル石と自然テルル 左右20ミリ



桧沢脈のテルル石と自然テルル 左右20ミリ

桧沢脈のテルル石と自然テルル 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石と自然テルル 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石 左右8ミリ

桧沢脈のテルル石 左右8ミリ












猿喰脈の黄鉄鉱中のテルル石近傍に見られる自然イオウ 
左右20ミリ
テルルの二次鉱物と間違え易い



テルル石のごく近くにバリシア石が観察された 左右8ミリ


猿喰脈の黄鉄鉱に見られる緑礬 左右8ミリ
エモンス石などテルルの二次鉱物生成に関わると思われる



猿喰脈の黄鉄鉱中に見られる淡い紫色の染み 左右8ミリ
テルルイオンの存在を示すものと思われる

I LOVE FLUORITE 蛍石大好き